受付終了
event2025年12月19日(金)
【開催レポート】「昭和の町工場」が最新テックで世間を驚かせるまで
【開催レポート】「昭和の町工場」が最新テックで世間を驚かせるまで
セミナー概要

イシダテック3代目が語る、地方企業が「AI×ハード」で描く勝利方程式

2025年12月19日、浜松市のオープンイノベーション拠点「The Garage for Startups」にて、「挑む中小企業プロジェクト2025」成長分野進出促進セミナーが開催されました。登壇したのは、静岡県焼津市で食品・医薬品製造装置を手掛ける株式会社イシダテックの3代目代表取締役、石田尚氏です。

「自分たちも道半ば。成功談だけでなく、その裏側にある葛藤をシェアしたい」という誠実な言葉から始まった講演は、地方の町工場がどのようにして「熟練の技」と「最新テクノロジー」を融合させ、世界初へ挑む組織へと変化を遂げたのかを紐解く示唆に富むものでした。


違和感から始まった「ボール拾い」と業務の可視化

2015年、コンサルティング業界から家業に戻った石田さんを待っていたのは、社員数28名の職人気質な「バリバリの昭和の企業」でした。全社でメールアドレスは1つしかなく、毎朝自分宛以外のメールを削除することから業務が始まるという状況に違和感を覚えます。

石田さんが最初に取り組んだのは、組織の隙間に落ちている「本当はやったほうがいいこと」を丹念に拾い上げる「ボール拾い」でした。1枚の伝票を執拗に追いかけ、情報・モノ・カネの流れを「業務マップ」として徹底的に見える化しました。一見遠回りに見えるこの泥臭い作業こそが、後にAI開発や組織をアップデートするための強固な土台となります。

また、いきなり大規模なシステムを導入するのではなく、紙とFAXで行っていた弁当注文をGoogleスプレッドシート化したり、社内にWi-Fiを導入したりと、現場が効果を実感しやすい「小さなデジタル化」を積み重ねることで、少しずつ組織にデジタルの土壌を整えていきました。

熟練の技への敬意を、組織の資産へ変えるデジタル戦略

イシダテックの最大の強みは、創業以来積み上げられてきた熟練技術者の圧倒的な知見にあります。しかし、特定の熟練技術者に知見が留まる、いわゆる属人化は経営リスクでもありました。

石田さんはこの課題に対し、同社のミッションである「技術が働き、人が輝く」という精神を形にするため、プロジェクト管理システムを導入します。ここで重視したのは、長年現場を支えてきた技術者たちへの深い敬意でした。

熟練技術者に無理やりノウハウを書き出させるのではなく、「今日起きた事象(事実)」を工程ごとに言語化・文字化してもらうという運用に変更したのです。失敗も成功もプロジェクトごとに記録が蓄積されることで、熟練技術者の「勘」や「暗黙知」が社内Wikipediaのような組織全体の資産へと昇華されました。ノウハウの形式知化だけでなく、管理や記録といった機械的な作業をシステムが担うことで熟練技術者は本来の創造性を発揮することに集中でき、文字通り「人が輝く」現場へと進化も遂げたのです。

即断即決から生まれた「ハード×AI」の勝利方程式

イシダテックが注目を集めるきっかけは、2018年に大手菓子メーカーから寄せられた「キャンディチーズの包装不良をAIで検査できないか」という相談でした。当時、社内にAIの開発実績はありませんでしたが、石田さんは大学時代の先輩へ助言を仰ぎ、さらに社内にAIを研究していた若手社員がいることがわかったため、わずか4時間以内に「なんとかなると思う」と回答しました。

この決断から、AIによる高度な判定(脳)と、時速200kmの空圧で製品を傷つけずに運ぶ独自の搬送機構(体)を融合させた、同社独自の競争優位性が生まれました。この「統合力」こそが、新たな市場を切り拓く鍵となったのです。

この実績は、薩摩酒造とのサツマイモ選別AI開発など、一次産業の課題解決へと繋がっていきます。薩摩酒造では熟練スタッフの高年齢化と人手不足が課題となっていた作業を自動化し、省人化だけでなく、伝統技術の継続を支える「現場の土台」を作りました。

富士通との共創、そして新会社「ソノファイ」の設立

「ハード×AI」の知見を積み重ねる中、2024年12月、イシダテックはさらなる大きな一歩を踏み出しました。富士通が開発した超音波解析AI技術を社会実装するためのスタートアップ、「ソノファイ株式会社(Sonofai Inc.)」の設立です。

このプロジェクトの背景には、5兆円を超える巨大なマグロ市場が抱える深刻な課題がありました。現在、冷凍マグロの「脂のり」判定は、尾を切って解凍する「尾切り」という破壊検査に頼っており、匠の技と多大な労力を要します。

富士通はこの課題に対し、他分野で開発した超音波解析AI技術を応用した「非破壊で脂のりを判定するAI」という基礎技術を完成させていましたが、ハードウェア開発は注力分野とは異なるため、社会実装を担うハードウェアパートナーを求めていました。きっかけは、以前から富士通とつながりのあった「イシダテックnote」ファンの方でした。

ソノファイが開発した世界初の装置は、冷凍状態のまま、人間の約5倍の速度で正確に脂のりを判定します。現在はビンチョウマグロから着手していますが、今後は他の魚種や食材への展開、さらには計測データの活用による新たなビジネスモデルの創出を狙っています。

「100億円企業」への誓いと共創の未来

講演の最後、石田さんは「売上高100億円企業」を目指すと宣言しました。それは単なる規模の拡大ではなく、自社技術を汎用化した「プロダクト型」ビジネスへの転換や、リードタイムを劇的に短縮するスマート工場の建設を進め、地域の人々が誇りに思える企業になるための実力を持つための挑戦です。地域から世界へ。なくてはならない産業で「困ったら真っ先に思い浮かぶ」存在を目指しイシダテックは持続的な成長を続けていきます。


【編集後記】

「企業は環境に適応しなければ潰れるようにできている。だからこそ、自社の見える化、言語化、危機感は友達である。」これは石田さんの印象的な言葉でした。

イシダテックの物語は、一企業の成功談に留まりません。地域の中小企業こそが、長年培ってきた「熟練の技術」を武器に、変化を恐れず挑戦し、外部との連携を重ねることで自ら変革を起こすことができる。そんな勇気をいただいた講演でした。


【事務局より】
あなたも「挑む中小企業」の一員になりませんか?
石田さんのように、既存事業の壁を突き破り、新たな市場を切り拓きたい経営者の皆様を「挑む中小企業プロジェクト」は全力で支援します。
詳細はこちら:https://wewill.jp/idomu/

開催概要
タイトル
【開催レポート】「昭和の町工場」が最新テックで世間を驚かせるまで
開催日時
2025年12月19日(金)
開催場所

The Garage for Startups(静岡県浜松市中央区高林1-8-43)

参加費
無料
申し込み方法

こちらのイベントは終了いたしました